交通事故に遭ったあと、「通院はどれくらいすればいいのか」「回数が少ないと不利になるのか」といった不安を感じる方は少なくありません。さらに、一定期間が経過すると、保険会社から「そろそろ治療は終了ではないか」「治療費の支払いは打ち切る」といった連絡を受けることもあります。
結論からいえば、通院回数に明確なルールは存在しません。しかし、実務上は通院の「頻度」が慰謝料や後遺障害の認定に大きな影響を与えるため、適切な通院を継続することが極めて重要になります。今回のコラムでは、通院頻度の考え方と、打ち切りを打診された場合の対応について解説します。
通院回数に決まりはないが「頻度」が重要
法律上、「交通事故後は何回通院しなければならない」といった明確な基準は設けられていません。したがって、形式的に回数だけを満たせばよいというものではありません。
もっとも、実際の損害賠償の場面では、通院の頻度や継続性が重要な判断材料となります。事故後の一定期間、症状に応じた頻度で継続的に通院しているかどうかは、その怪我がどの程度のものであったのか、どれほどの苦痛を伴っていたのかを示す一つの指標として扱われるためです。
一般的には、症状が出ている初期の段階では週に2回から3回程度の通院が一つの目安とされることが多く、その後、症状の改善に応じて頻度を落としていく形が自然といえます。ただし、これはあくまで一例であり、最も重要なのは医師の指示に従い、症状に応じた適切な通院を行うことです。
なぜ通院頻度が重要なのか
通院頻度が重視される理由は、主に慰謝料の算定と後遺障害認定という二つの観点にあります。
まず慰謝料については、通院期間だけでなく実際に通院した日数が考慮されます。通院日数が極端に少ない場合、「実際にはそれほど通院を必要とする症状ではなかったのではないか」と評価され、結果として慰謝料が低く算定される可能性があります。
また、後遺障害の認定においても、通院状況は重要な意味を持ちます。症状が継続しているにもかかわらず通院が断続的であったり、間隔が空きすぎていたりすると、症状の一貫性や継続性が疑われ、「後遺障害として認定するほどのものではない」と判断されるリスクがあります。
さらに、医療機関で作成される診療記録は、事故による怪我の内容や経過を裏付ける客観的な証拠となります。適切な頻度で通院していなければ、こうした記録自体が十分に積み重ならず、結果として証明力が弱まってしまうことにもつながります。
通院頻度の目安と注意点
実務上は一定の目安が存在するものの、通院頻度はあくまで症状に応じて決まるべきものです。例えば、痛みやしびれが強く残っている時期には一定の頻度で通院を継続することが望ましい一方で、症状が軽快しているにもかかわらず不自然に頻繁な通院を続けていると、かえって不信感を招くおそれもあります。
特に問題となるのは、通院回数が少なすぎるケースです。仕事が忙しい、通院先が遠いといった事情から通院間隔が空いてしまうことは現実に起こり得ますが、その結果として「軽症」と評価されてしまう可能性は否定できません。
一方で、「通院すればするほど有利になる」という単純なものでもありません。重要なのは、症状の程度や医師の判断と整合する形で、無理のない範囲で継続的に通院しているかどうかです。
保険会社が治療費打ち切りを打診する理由
交通事故後の治療が一定期間続くと、保険会社から治療費の支払いを打ち切る旨の連絡が入ることがあります。これは必ずしも症状が完全に回復したことを意味するものではなく、保険会社側の判断によるものです。
一般的には、事故からの経過期間や治療内容、医師の所見などを踏まえて「症状は固定したのではないか」と判断されると、打ち切りが検討されます。とりわけ、むちうちのように外見上分かりにくい症状については、一定期間を過ぎると打ち切りの打診がなされやすい傾向があります。
もっとも、保険会社はあくまで支払主体の立場にあり、必ずしも被害者の症状を最優先に判断しているとは限りません。そのため、打ち切りの提案があった場合でも、それが医学的に妥当であるかどうかは別途検討する必要があります。
打ち切りと言われたときの正しい対処法
保険会社から治療費の打ち切りを打診された場合、最も避けるべきなのは、そのまま通院をやめてしまうことです。症状が残っているにもかかわらず通院を中断してしまうと、その後の損害賠償請求において不利に働く可能性が高まります。
まず重要なのは、主治医に現在の症状を正確に伝え、治療継続の必要性について意見を求めることです。医師が引き続き治療が必要と判断するのであれば、その旨を診断書や意見書として残してもらうことが、後の交渉において大きな意味を持ちます。
また、保険会社による一括対応が終了した場合でも、それはあくまで「保険会社が医療費を立て替えて支払う対応が終了する」という意味にすぎません。治療の必要性がある限り、通院自体を継続することは可能です。
この場合、一時的にはご自身で医療費を負担する形になりますが、健康保険を利用して自己負担を抑えながら通院を続けることが一般的です。そして、そのようにして支出した治療費についても、最終的には相手方に対して損害として請求できる余地があります。
さらに、打ち切りの判断が妥当でないと考えられる場合には、弁護士に相談することで対応の幅が広がります。交渉により治療費の支払い期間が延長されるケースも少なくありませんし、仮に打ち切りが覆らなかった場合でも、その後の損害賠償請求において適切な主張立証を行うことが可能になります。
やってはいけない行動
交通事故後の通院に関しては、何気ない対応が結果に大きな影響を及ぼすことがあります。特に注意すべきなのは、症状があるにもかかわらず通院を自己判断で中断してしまうことや、医師に対して痛みや不調を十分に伝えないまま診察を終えてしまうことです。
また、保険会社からの説明をそのまま受け入れてしまい、自らの状況を客観的に見直す機会を持たないままでいると、本来受けられるはずの補償を十分に受けられなくなるおそれもあります。
こうした事態を避けるためには、通院状況や症状について常に一貫性のある対応を心がけるとともに、疑問があれば早い段階で専門家に相談することが重要です。
おわりに
交通事故における通院は、単に治療のためだけでなく、損害賠償の観点からも極めて重要な意味を持ちます。通院回数に明確な決まりはないものの、その頻度や継続性によって慰謝料や後遺障害の認定結果が左右される可能性があります。
また、保険会社から治療費の打ち切りを打診された場合でも、それが直ちに治療終了を意味するわけではありません。実際には、症状が残っているにもかかわらず通院をやめてしまい、結果として適正な補償を受けられなくなるケースも少なくありません。
とりわけ、以下のような状況にある場合には、今後の対応によって結果が大きく変わる可能性があります。
・通院頻度が適切か分からない
・保険会社から打ち切りを打診されている
・このまま通院を続けてよいのか不安がある
・慰謝料や後遺障害への影響が気になる
こうした場合には、早い段階で専門家に相談することで、ご自身の状況に応じた適切な対応を取ることが可能になります。通院の進め方や打ち切り対応は一つとして同じケースはなく、個別の事情を踏まえた判断が重要です。
当事務所では、交通事故被害者の方からのご相談を多数取り扱っており、通院の進め方や保険会社との対応についても具体的なアドバイスを行っています。初期の対応によってその後の結果が大きく変わることも少なくありませんので、お悩みの方は一度ご相談ください。