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交通事故

第17回交通事故コラム 任意保険未加入の加害者に事故に遭った場合の対応

突然の交通事故は、誰にとっても想定外の出来事です。ケガの痛み、仕事への影響、そして先行きへの不安——それだけでも十分つらい状況です。ところが、事故後に加害者から「実は任意保険に入っていないんです」と打ち明けられたとき、被害者の方が感じる絶望感は計り知れません。「一体、誰が治療費を払ってくれるの?」「泣き寝入りするしかないの?」と頭が真っ白になる方も少なくありません。

北海道・札幌では、冬の積雪や凍結路面による交通事故が年間を通じて多く発生します。スリップ事故や追突事故が多い冬道では、加害者が任意保険に未加入であるケースも残念ながら存在します。雪道での事故直後、体も動揺している中で、保険交渉まで自力で対応しなければならないとしたら——それは非常に大きな負担です。

実は、たとえ加害者が任意保険に未加入であっても、被害者が補償を受けるための制度や手段は複数存在します。法律はそのような状況の被害者を見捨てているわけではありません。しかし、制度を正しく理解して動かなければ、受け取れるはずの補償を取りこぼしてしまう危険があります。

今回のコラムでは、加害者が任意保険に未加入だった場合に被害者が取るべき対応と、利用できる制度・請求方法について、弁護士の立場からわかりやすく解説します。

任意保険未加入とはどういう状態?自賠責保険との違い

自動車保険の2つの種類を整理する

自動車保険には大きく分けて「自賠責保険(強制保険)」と「任意保険」の2種類があります。まずはこの違いを整理しておきましょう。

自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、自動車損害賠償保障法5条で加入が義務づけられている強制保険です。すべての車・バイク(原付含む)の所有者・運転者に加入が義務付けられており、加入していない場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という罰則があります(自動車損害賠償保障法86条の3)。

任意保険は、自賠責保険ではカバーしきれない損害を補償するために任意で加入する保険です。対人・対物ともに無制限で設定できるため、事故時の損害賠償に大きな威力を発揮します。しかし、あくまで任意加入のため、加入していない方が一定数います。損害保険料率算出機構の「2025年度 自動車保険の概況」によれば、任意保険(共済含む)の対人賠償普及率は88.6%となっています。つまり、約10%が無保険車となる計算です。

任意保険未加入の場合に被害者が直面する問題

任意保険未加入の加害者との事故では、示談交渉の窓口が保険会社ではなく、加害者本人となる点に注意が必要です。加害者が任意保険に加入している場合、示談代行サービスが付帯していることが一般的なため、通常は任意保険会社の担当者が代理人として示談交渉を行います。しかし、任意保険に入っていない場合、交渉は被害者と加害者の当事者同士で直接行う必要があります。

また、加害者が無保険の場合は、加害者と直接交渉・示談が必要となります。加害者と連絡が取れないなどのトラブルや、円滑に示談が進まないおそれがあります。このような状況に一人で立ち向かうことは、被害者にとって非常に大きな負担となる可能性があります。

まず確認!加害者が「自賠責保険のみ加入」の場合の対応

自賠責保険への「被害者請求」という手段

加害者が任意保険に未加入であっても、自賠責保険に加入している場合は、被害者が直接自賠責保険会社に保険金を請求することができます。これを「被害者請求」といいます(自動車損害賠償保障法16条)。

自賠責保険は被害者救済のための制度という趣旨から、被害者の過失割合が7割未満であれば、過失相殺なしで賠償金が支払われます。また、被害者1人あたりの支払額が決められているため、複数の被害者がいる場合でも、支払金額を分ける(按分)ことにはなりません。

被害者請求の手続きを進めるには、まず交通事故証明書で相手の自賠責保険会社を確認し、必要書類(交通事故証明書・診断書・診療報酬明細書・休業損害証明書など)を集めて請求します。

自賠責保険の補償内容と上限額に注意

ただし、自賠責保険はあくまで最低限の補償を目的とした保険であり、以下のような限界があります。

  • 補償の対象は人身損害(ケガ・死亡・後遺障害)のみであり、車の修理費などの物損は対象外です。
  • 支払限度額が定められており、傷害(ケガ):最大120万円、後遺障害:最大4,000万円(等級による)、死亡:最大3,000万円となっています。
  • 傷害の場合の限度額は、治療費のほかに休業損害、慰謝料等を合わせて120万円であり、治療費が高額になると慰謝料等の支払いは制限されます。

自賠責保険は被害者救済の趣旨から、被害者に重過失がない限り減額されません。自賠責保険の被害者請求は、被害者が使える重要な権利の一つです。ただし、補償額に限度があるため、それを超える損害については別途対応が必要になります。

加害者が自賠責保険も未加入の場合は?「政府保障事業」を活用する

政府保障事業とはどのような制度か

ごくまれに、自賠責保険にすら加入していない加害者による事故に遭うケースがあります。そのような場合でも、諦める必要はありません。「政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)」という制度が用意されています。

加害者が自賠責保険に加入しておらず、損害賠償を受けられないときは、政府の保障事業に請求することができます(自賠法第72条1項)。ひき逃げや盗難車などによる交通事故の場合も対象です。

政府保障事業による保障の内容は、基本的に自賠責保険による保険金・損害賠償金の支払いと同様です。具体的には、保険会社(損害保険会社)が政府から窓口業務の委託を受けており、最寄りの損害保険会社の窓口に申請することで手続きが行えます。

政府保障事業を利用する際の注意点

政府の保障事業は最終的な被害者救済措置であるため、健康保険、労災保険等の社会保険を利用できる場合は、まずそれらを先に使用すべきものとされています。

また、この政府保障事業からの損害塡補金の支払限度額は、自賠責保険金の限度額と同じですが、健康保険等の社会保険から給付を受けるべき場合には、その給付額を控除した額が支払限度額となります。また、加害者から損害賠償の支払を受けた場合も、その金額分については、塡補金の支払はなされません。

なお、令和4年6月、自動車損害賠償保障法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第65号)により、政府保障事業が「被害者保護増進等事業」として新たに位置付けられました。この改正により、被害者支援の安定的・持続的な実施に向けた制度の整備が図られています。

自分自身の保険・労災保険を賢く使う方法

ご自身の任意保険の活用:人身傷害保険・無保険車傷害保険

加害者が任意保険に未加入の場合でも、被害者ご自身(またはご家族)が加入している任意保険の各種補償を活用できる可能性があります。特に重要なのが以下の2つです。

①人身傷害補償保険
自分自身や同乗者がケガや死亡したときに補償される保険です。治療に要した費用はもちろん、休業損害、慰謝料なども補償されます。大きな特徴は、過失割合に関係なく損害額が補償される点や、示談の成立を待たずに先に保険金を受取れる点です。

②無保険車傷害保険(特約)
無保険車傷害保険は、相手方の賠償資力が不十分である場合や、相手方が対人賠償責任保険を契約していないなど無保険自動車であるため損害賠償義務を果たすことができない場合に、自身が契約する保険会社から、相手方からの損害賠償に代わって補償を受けることができる保険です。ただし、補償されるのは死亡・後遺障害の場合のみに限定されている点に注意が必要です。

被害者本人だけでなく、被害者ご家族の加入している自動車保険から保険金が支払われる場合もあります。ご家族の保険もよく確認しておかれるとよいでしょう。

健康保険・労災保険の積極的な活用

加害者が無保険の場合には、治療費の立替払いリスクを減らすために、健康保険や労災保険を積極的に活用することが重要です。

  • 健康保険:交通事故の治療にも健康保険は利用できます(「第三者行為による傷病届」を管轄機関に提出する必要があります)。健康保険で治療をすることで、自賠責保険は傷害の場合120万円が限度額であることから、健康保険の利用により治療費を抑えることによって、自賠責保険を治療費以外の補償(休業損害、慰謝料等)に充てられるメリットがあります。
  • 労災保険:被害者が雇主の業務に従事中、または通勤途中に交通事故の被害に遭った場合には、労災保険が適用になります。労災保険には健康保険にあるような治療費の自己負担部分がありません。また、労災保険では被害者の過失割合による減額もない点も大きなメリットです。

加害者本人への直接請求と法的手段:注意すべきポイント

加害者への直接請求の進め方

自賠責保険の補償限度額を超える損害や、物損(車の修理代など)については、最終的には加害者本人に直接請求することが必要になります。具体的には次のような流れで進めます。

  1. 発生した損害(治療費・休業損害・慰謝料・修理費など)を項目ごとに計算し、合計額を算定する
  2. 内容証明郵便で、請求金額を明記した損害賠償請求書を加害者に送付する(証拠として書面に残すことが重要です)
  3. 加害者との示談交渉を行い、合意が得られれば公正証書による示談書を作成する(公正証書にすることで、支払いを怠った場合にすぐ差押えが可能になります)
  4. 交渉が決裂した場合には、訴訟(裁判)を提起して判決を得たうえで強制執行(財産の差押え)を申し立てる

加害者への直接請求が難しいケースとリスク

残念ながら、実務上、加害者本人への直接請求が思うように進まないケースは少なくありません。

任意保険に加入していない加害者は、支払い能力(資力)が乏しいケースが多く、請求しても「お金がない」と支払いを拒否されたり、分割払いを求めてきたりするなど、実際に全額を回収するのは非常に困難な場合が少なくありません。話し合いで解決しない場合は、訴訟(裁判)を起こして判決を得て、加害者の財産(給与、預貯金、不動産など)を差し押さえるといった法的手段を取ることも考えられます。ただし、加害者に差し押さえるべき財産がなければ、判決を得ても回収できないリスクがあります。

また、示談に応じてもらえない・交渉が進まないといったトラブルを避けるためにも、早い段階で弁護士に相談し、代理交渉を依頼することをおすすめします。弁護士が介入することで、加害者に対して法的根拠に基づいた適切な請求を行うことができ、交渉を有利に進められる可能性が高まります。

また、弁護士費用特約(ご自身またはご家族の任意保険に付帯されていることがあります)を利用すれば、弁護士費用の自己負担なしに弁護士に依頼できる場合があります。まずは保険証書を確認してみてください。

おわりに

加害者が任意保険に未加入の事故に遭った場合の対応を、以下のポイントに整理します。

  • 加害者が自賠責保険に加入している場合 → まず自賠責保険への「被害者請求」(自動車損害賠償保障法16条)を行う。ただし補償は人身損害のみ・上限額あり
  • 加害者が自賠責保険も未加入の場合 → 「政府保障事業」(自賠法72条1項)への請求を検討する
  • 自賠責保険の上限を超える損害・物損 → 加害者への直接請求、またはご自身の人身傷害保険・無保険車傷害保険・車両保険の活用を検討する
  • 業務中・通勤中の事故であれば → 労災保険の活用も有効
  • 交渉が行き詰まった場合 → 内容証明・訴訟・強制執行などの法的手段、そして弁護士への依頼が解決の近道

加害者が任意保険に未加入であることは、被害者にとって非常に不利な状況ですが、複数の制度や手段を組み合わせることで、補償を最大限に確保できる可能性があります。一人で抱え込まず、早期に専門家へ相談することが重要です。

当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。

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