突然、ご家族が交通事故で亡くなられた——そのような知らせを受けたとき、頭が真っ白になり、何から手をつければよいかまったくわからなくなる方がほとんどです。悲しみと混乱の中で、葬儀の手配、役所の手続き、そして加害者や保険会社への対応まで、次々とやるべきことが押し寄せてきます。
さらに、「加害者側の保険会社から連絡が来たが、提示された金額が適正かどうかわからない」「そもそも誰がどのように損害賠償を請求すればよいのか」と、法律的な疑問が次から次へと湧いてくることと思います。特に北海道・札幌では、冬の降雪・凍結路面による死亡事故が後を絶たず、毎年多くのご遺族が同様の不安を抱えていらっしゃいます。
死亡事故の損害賠償は、ケガの場合と異なり、請求できる金額の項目が多岐にわたり、手続きも複雑です。しかも、2020年4月1日施行の改正民法により、損害賠償請求権の時効期間や逸失利益の計算方法に重要な変更が加えられました。知らずに対応してしまうと、本来受け取れるはずの賠償金を大幅に下回る金額で示談してしまう危険があります。
今回のコラムでは、交通事故の死亡事故において遺族が請求できる損害賠償の項目と金額の目安、誰が請求できるのか、具体的な手続きの流れ、そして保険会社との交渉で注意すべきポイントについて、できる限りわかりやすく解説します。
死亡事故の損害賠償とは?遺族が請求できる法的根拠
損害賠償請求の根拠となる法律
交通事故の加害者は、故意または過失によって他人の生命・身体を侵害した者として、被害者が被った損害を賠償する義務を負います(民法第709条・第710条)。死亡事故の場合には、被害者本人がすでに亡くなっているため、この損害賠償請求権はご遺族が引き継ぐことになります。
具体的には、二つの流れで賠償金が遺族に支払われます。
- ①相続による請求:被害者本人に発生した損害賠償請求権(死亡慰謝料・逸失利益など)を、法定相続人が相続して加害者へ請求する
- ②遺族固有の慰謝料請求:民法第711条に基づき、被害者の父母・配偶者・子が、自分自身の精神的苦痛に対する慰謝料を固有の権利として請求する
つまり、相続人でなくても、父母・配偶者・子にあたる方であれば、独自に慰謝料を請求できる可能性があります。たとえば、被害者に配偶者と子がいる場合でも、被害者の父母は相続人にはなりませんが、民法第711条に基づいて固有の慰謝料請求権が認められます。
また、民法711条に定められた父母・配偶者・子以外の方(兄弟姉妹・祖父母・内縁の配偶者など)であっても、これらの者と実質的に同視できるほど緊密な関係にあり、被害者の死亡によって甚大な精神的苦痛を受けた場合には、同条を類推適用して慰謝料請求が認められることがあります(最高裁判所昭和49年12月17日判決)。
遺族が請求できる損害賠償の項目と金額の目安
①死亡慰謝料(被害者本人分+遺族固有分)
死亡慰謝料は、「被害者本人の精神的苦痛に対する慰謝料」と「遺族固有の慰謝料」を合わせたものです。金額は、算定に使う「基準」によって大きく異なります。
交通事故の慰謝料には主に以下の3つの基準があります。
- 自賠責基準:自賠責保険の支払限度内で適用される最低限の基準
- 任意保険基準:各保険会社が独自に設定している基準(非公開のものが多い)
- 弁護士基準(裁判基準):裁判所が用いる基準で、3つの中で最も高額になる
【自賠責基準による死亡慰謝料の目安】(令和2年4月1日以降の事故に適用)
- 被害者本人への慰謝料:400万円
- 遺族への慰謝料:請求権者1名→550万円、2名→650万円、3名以上→750万円
- 被害者に扶養家族がいた場合:上記に200万円を加算
たとえば、配偶者と子ども2人を扶養していた被害者の場合、自賠責基準では、400万円(本人分)+750万円(遺族3名以上)+200万円(扶養家族あり)=合計1,350万円が上限となります。
【弁護士基準(裁判基準)による死亡慰謝料の目安】(被害者本人分+遺族分の合計)
- 被害者が一家の支柱だった場合:2,800万円
- 被害者が母親・配偶者だった場合:2,500万円
- その他(独身者・子ども・高齢者など)の場合:2,000万円〜2,500万円
自賠責基準と弁護士基準では、2倍以上の差が生じることも珍しくありません。保険会社から提示される金額は自賠責基準や任意保険基準であることが多く、弁護士が交渉に介入することで弁護士基準での請求が可能になり、大幅な増額につながる可能性があります。
②死亡逸失利益(失われた将来の収入)
死亡逸失利益とは、被害者が事故に遭わなければ将来にわたって得られたはずの収入が失われたことに対する補償です。死亡事故における損害賠償の中でも最も高額になることが多い費目です。
計算式は以下のとおりです。
逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
- 基礎収入額:原則として事故前の年収。30歳未満の若年労働者や学生などの場合は「賃金センサス(厚生労働省が公表する平均賃金統計)」を参考に算出することもあります
- 生活費控除率:一家の支柱で扶養者が1人の場合は40%、2人以上の場合は30%など、状況によって異なります
- ライプニッツ係数:将来の収入を現在価値に換算するための係数。2020年4月1日施行の改正民法により法定利率が5%から3%へ引き下げられたため、この係数が大きくなり、逸失利益の計算額が以前より増加することとなりました
たとえば、年収600万円・40歳・扶養家族2名の場合、生活費控除率30%、就労可能年数27年(67歳まで)のライプニッツ係数18.327を用いると、逸失利益は600万円×70%×18.327=約7,697万円にものぼる計算となります(あくまで目安です)。
③葬儀費用・葬儀関係費用
葬儀・火葬・法要・仏壇・墓石建立費なども損害賠償として請求できます。認められる金額の目安は以下のとおりです。
- 自賠責基準:一律100万円(令和2年3月31日以前に発生した事故は60万円)
- 弁護士基準:原則として上限150万円(実費が150万円を下回る場合は実際の支出額)
なお、香典返しは他者からの贈与に対するお返しであるため、加害者に請求することはできません。また、会社役員や著名人の葬儀で弔問客が多数に及ぶなど特別な事情がある場合には、150万円を超える葬儀費用が認められた裁判例もあります。
誰が請求できるのか?相続人と請求権者の関係
法定相続人の順位と相続分
死亡事故の損害賠償請求は、原則として法定相続人が行います。民法上の法定相続人の順位は以下のとおりです。
- 配偶者:常に相続人となります(民法第890条)
- 第1順位:子(民法第886条)。養子・認知した子・胎児を含みます
- 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)。子がいない場合に相続人となります
- 第3順位:兄弟姉妹。子も直系尊属もいない場合に相続人となります
相続人が複数いる場合、損害賠償請求権は法定相続分に応じて各相続人が分割して取得するのが原則です。ただし、相続人全員の合意があれば、分割割合を変更したり、代表者1名が一括して請求することも可能です。
相続人全員の協力が必要なケース
死亡事故では、相続人全員が請求に関わる必要がある点に注意が必要です。たとえば、相続人が被害者の配偶者と子ども3人の計4名であれば、4名全員が協力して交渉・請求を進めることが求められます。相続人の中に音信不通の方や意見が合わない方がいる場合、手続きが難航することもあります。このような場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
損害賠償請求の手続きと流れ
自賠責保険への被害者請求
加害者側の任意保険が対応しない場合や、すぐに一定額を受け取りたい場合は、加害者の自賠責保険に対して直接「被害者請求」を行うことができます(自動車損害賠償保障法第16条)。
自賠責保険の死亡事故に関する支払限度額は1名あたり3,000万円です。また、示談成立を待たずに当座の費用として仮渡金290万円を請求できる制度もあります(自動車損害賠償保障法第17条)。
被害者請求の主な手順は以下のとおりです。
- 交通事故証明書で加害者の自賠責保険会社を確認する
- 自賠責保険会社へ連絡し、必要書類一式を取り寄せる
- 必要書類(支払請求書・交通事故証明書・死亡診断書・戸籍謄本・印鑑証明書など)を準備して提出する
- 損害保険料率算出機構による損害調査(通常1〜3ヶ月程度)
- 審査結果に基づき保険会社が支払額を決定・振込
なお、死亡事故で請求権者が複数いる場合は、原則として1名を代理者として他の請求権者全員の委任状および印鑑証明が必要となります。
任意保険会社との示談交渉と注意点
自賠責保険の支払限度額を超える損害については、加害者が加入する任意保険会社との示談交渉が必要です。示談交渉は、葬儀費用などの損害額が確定した後に開始するのが一般的で、四十九日法要が終わったタイミングで始まるケースが多いとされています。
示談交渉における最大の注意点は、保険会社から最初に提示される金額をそのまま受け入れないことです。保険会社が最初に提示する金額は、自賠責基準や任意保険基準に基づいて計算されることが多く、弁護士基準と比べると大幅に低い水準であることが少なくありません。
また、一度示談に合意してしまうと、原則として追加請求はできなくなります。悲しみの中で早く解決したいというお気持ちはよく理解できますが、焦って署名・捺印する前に、必ず内容を精査することが重要です。
弁護士が交渉に介入すると、保険会社が訴訟への発展を考慮して弁護士基準での支払いを受け入れやすくなり、自賠責基準・任意保険基準の2〜3倍に増額できる可能性があります。
損害賠償請求権の時効と2020年改正民法の影響
死亡事故の時効は「死亡した日の翌日から5年」
損害賠償請求権には時効があります。請求せずに時効を迎えてしまうと、原則として請求権を失ってしまいます。
改正民法(2020年4月1日施行)により、生命・身体への侵害による損害賠償請求権の時効は被害者が死亡した日の翌日から5年となりました(民法第724条の2)。改正前は3年でしたが、被害者保護の観点から延長されたものです。
- 死亡事故の場合:死亡した日の翌日から5年(ひき逃げなど加害者不明の場合は事故日から20年)
- 物損部分:事故発生日の翌日から3年(改正後も変わらず)
5年と聞くと余裕があるように感じるかもしれませんが、悲しみの中で時間が経過し、気づいたら時効が迫っていたというケースも実際にあります。また、自賠責保険への被害者請求の時効は3年(自動車損害賠償保障法第19条)と短い点にも注意が必要です。示談交渉が長引いている場合は、内容証明郵便による催告(民法第150条)や訴訟提起などで時効の完成を防ぐ手続きをとることが重要です。
保険会社の交渉戦術に注意すべきケース
保険会社は、死亡慰謝料が高額になる傾向があるため、以下のような対応をとることがあります。
- 提示金額の根拠を十分に説明しないまま、早期の示談を促す
- 被害者の過失を大きく見積もり(過失相殺)、賠償額を減らそうとする
- 逸失利益の計算で生活費控除率を高く設定し、賠償額を低く抑えようとする
- 葬儀費用や近親者固有の慰謝料など、一部の費目を計上しない
これらの問題は、専門知識がなければ気づきにくいことがほとんどです。過失割合のわずかな違いが、高額な死亡事故の賠償金では数百万円単位の差につながることもあります。
おわりに
死亡事故の損害賠償は、①死亡慰謝料(被害者本人分+遺族固有分)、②死亡逸失利益、③葬儀費用が主な請求項目であり、それぞれ自賠責基準・弁護士基準によって大きく金額が異なります。民法第711条に基づき、父母・配偶者・子は相続人かどうかにかかわらず固有の慰謝料を請求できること、2020年改正民法で時効が5年に延長されたこと、そして保険会社の当初提示額は弁護士基準を大きく下回ることが多いという点が、特に重要なポイントです。
ご遺族が悲しみの中で保険会社と対峙するのは、心身ともに大きな負担です。一人で抱え込まず、早めに専門家に相談されることを強くお勧めします。
当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。