自転車で走行中、自動車に追い越される際にヒヤリとした経験はないでしょうか。十分な距離を保たずに高速で追い抜いていく車や、狭い道路で無理に追い越そうとする車に恐怖を感じた方も多いと思います。そして、もし接触事故が起きた場合、「自転車側にも過失があったのでは」と保険会社から主張され、思うような賠償が受けられないのではないかという不安を抱く被害者の方も少なくありません。
2026年4月1日から、道路交通法第18条が改正され、自動車が自転車を追い越す際の新しいルールが施行されました。この法改正により、自動車側には側方間隔の確保と減速の義務が明文化され、違反した場合には罰則も設けられています。これまで曖昧だった「安全な追い越し」の基準が具体化されたことで、事故が起きた際の過失割合の判断にも影響を与える可能性があります。
また、自転車側にも新たな義務が課されており、双方が法律を理解して道路を共有することが求められています。北海道・札幌では、冬期間の路面凍結や積雪により道幅が狭くなることも多く、この新ルールの重要性はさらに高まります。
今回のコラムでは、自動車が自転車を追い越す際の新ルールの具体的な内容、違反した場合の罰則、そして交通事故における過失割合への影響について詳しく解説します。
改正道路交通法第18条とは何か
新ルールの具体的な内容
改正道路交通法第18条では、自動車などは、十分な間隔が取れない状況で自転車などの右側を通過する場合は、自転車などとの間隔に応じて、安全な速度で進行しなければならないとされています。これは、車線変更を伴う「追い越し」だけでなく、同一車線内で自転車の横を通過する「追い抜き」にも適用されます。
法律の条文には具体的な数値は明記されていませんが、警察庁が示す目安として、間隔は「1.5m以上の間隔を空ける」こと、速度は「徐行(すぐに停車できる速度)」が推奨されています。警察庁の資料では、「自転車等と1メートル程度の間隔を確保できない場合には、時速20キロメートルから30キロメートル程度で運転しましょう」としています。
これまでは、歩行者の側方を通る場合のみ規定があったが、クルマが自転車の右側を通過する際は十分な間隔をとる義務が、自転車等にも拡大することになりました。つまり、これまで明文化されていなかった自転車への配慮が、法律上の義務として明確になったのです。
自転車側にも新たな義務
改正法では、自動車側だけでなく自転車側にも新たな義務が課されています。自動車などと自転車などの間に十分な間隔が取れない状況で、自動車などが自転車などの右側を通過するとき、自転車などはできる限り道路の左側端に寄って通行しなければなりません。
これに違反すると、被側方通過車義務違反として、5万円以下の罰金、反則金5,000円の対象となります。自動車と自転車の双方に義務を課すことで、互いに協力して安全な通行環境を作ることを目指す改正となっています。
罰則と違反点数はどうなる?
自動車側の罰則
自動車などが側方間隔や減速の義務に違反すると、罰則として3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金、点数2点、反則金7,000円(普通車)が科されます。これは交通違反としては比較的重い部類に入り、警察による取り締まりの対象となります。
従来は、実際に接触事故が起きない限り取り締まりが難しかった面がありましたが、今回の改正で新設される第18条第3項では「十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度(徐行)で進行しなければならない。」と明記され、つまり「間隔が狭いのに速度を落とさなかった」こと自体が、明確な法令違反になるのです。
自転車側の罰則
自転車側が左側端に寄る義務に違反した場合、5万円以下の罰金、反則金5,000円が科されます。2026年4月1日からは自転車にも交通反則通告制度(青切符)が適用されるため、自転車の違反にも反則金が科されることになりました。
ただし、自転車側に義務があるからといって、自動車側が無理な追い越しをしても良いわけではありません。自転車が左に寄らない場合でも、自動車側は安全を確保できるまで追い越しを控える必要があります。
法改正前後の違いと背景
改正前の問題点
改正前の道路交通法第28条第4項には、自転車の右側方を追い越しをする際は「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」と定められていました。しかしこの条文、「安全」の基準が何も定められていません。そのため、強引な追い越しによる接触事故が繰り返されながら、法律が十分に機能しない状態が続いていました。
法改正の背景には、交通事故件数総数が減少傾向にある中、自転車関連事故は7万件前後を横ばいで推移しており、全交通事故に対して自転車事故が占める割合は増加し続けている現状があります。特に、自動車が自転車の側方を通過する際に発生する事故が問題視されていました。
改正による明確化
今回の改正により、「十分な間隔がない場合は減速する」という義務が明文化されました。間隔については法律上の数値基準はありませんが、警察庁が示す「1メートル程度の間隔」や「時速20〜30キロ程度」は、警察庁が示す安全上の目安であり、法令に数値基準として明記されたものではありませんが、実務上の判断基準として重視される可能性が高いでしょう。
過失割合への影響と実務上の注意点
新ルール違反が過失認定に与える影響
交通事故における過失割合は、事故の状況や当事者の法令違反の有無などを総合的に考慮して決定されます。自動車が十分な側方間隔を取らずに自転車を追い越し、事故が発生した場合、自動車側の過失割合が大幅に高くなることが予想されます。改正法の義務違反が明確であれば、自動車側に80〜100%の過失が認定される可能性もあります。
従来の過失割合の判断基準(別冊判例タイムズなど)は、この新ルールが施行される前に作成されたものです。したがって、今後は新ルール違反の有無が過失割合を修正する要素として考慮される可能性が高くなります。
自転車側の違反と過失割合
一方、自転車側が左側端に寄る義務に違反していた場合、その点が過失として考慮される可能性もあります。自転車側に「著しい過失」や「重過失」が認められると、過失割合が加算されることがあります。たとえば、酒気帯び運転や二人乗り運転などの場合、自転車側の過失が5%〜10%程度加味されるため、過失割合が「車:自転車=8~9:2~1」になることも想定されます。
ただし、自転車と車の事故では、一般的に車側の過失(責任)が大きくなりやすいとされています。車に比べて自転車は交通弱者といえますので、車側の過失が厳しく判断される傾向にあります。この「交通弱者保護の原則」は、新ルール施行後も変わらないと考えられます。
保険会社との交渉における注意点
保険会社との交渉では、保険会社の主張する過失割合を絶対だと思わないことが重要です。保険会社は自らが支払う慰謝料額をできるだけ低く抑えるため、被害者の方の過失割合をできるだけ高く見積もってきます。
新ルール施行後の事故では、自動車側が側方間隔の確保や減速を怠っていたかどうかが重要な争点となります。自転車で走行中に側方間隔が不十分な自動車に接触された場合は、すぐに警察に届け出ることが重要です。改正法の施行により、自動車側の義務違反が明確になったため、被害者としての権利主張がしやすくなっています。
事故発生時に確認すべきポイント
自転車で走行中に自動車との接触事故に遭った場合、以下の点を確認・記録しておくことが重要です。
- 自動車との側方間隔がどの程度だったか
- 自動車の速度はどの程度だったか
- 道路の幅員や交通状況
- 自転車が左側端に寄っていたか
- 目撃者の有無と連絡先
これらの情報は、過失割合を判断する上で重要な材料となります。可能であれば、事故現場の写真を撮影し、目撃者がいれば連絡先を確保しておきましょう。
北海道・札幌における特殊事情
冬期間の注意点
北海道や札幌では、冬期間の積雪や路面凍結により、道路幅が狭くなることが多くあります。除雪された雪が道路脇に積まれることで、実質的な車道幅が大幅に減少し、1.5メートルの側方間隔を確保することが物理的に困難な状況も発生します。
このような状況では、自動車側は無理に追い越しをせず、自転車の後方で安全が確保できるまで待機することが求められます。また、自転車側も、冬期間の走行には特に注意が必要で、滑りやすい路面では予測しにくい動きをする可能性があることを自動車側も認識すべきです。
札幌市内の狭い道路での対応
札幌市内には、住宅街を中心に道幅の狭い道路が多く存在します。このような道路では、対向車がいる場合や路上駐車車両がある場合、1メートル以上の側方間隔を確保することが困難なケースも少なくありません。
このような場合、自動車側は十分に減速し、場合によっては一時停止して自転車を先に行かせるなどの配慮が必要となります。焦って無理な追い越しをすることで事故が発生すれば、新ルール違反として重い過失が認定される可能性があります。
被害者として知っておくべきこと
適正な賠償を受けるために
自転車事故の被害に遭った場合、適正な賠償を受けるためには以下の点に注意が必要です。
- すぐに警察に通報する:事故証明書がなければ保険請求ができません
- 人身事故として届け出る:実況見分調書が作成され、過失割合の判断材料になります
- 医療機関を受診する:痛みがある箇所はすべて医師に伝えましょう
- 保険会社の提示額を鵜呑みにしない:弁護士に相談することで増額できる可能性があります
自転車事故の場合、自動車事故とは違い自賠法が適用されませんので、被害者の側で自転車運転手に過失があったことを証明する必要があります。ただし、自動車対自転車の事故では、自動車側に新ルールの義務違反があることを主張することで、有利な過失割合の認定を受けられる可能性が高まります。
弁護士に相談するタイミング
以下のような場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
- 保険会社が提示する過失割合に納得できない場合
- 重傷を負い、後遺障害が残る可能性がある場合
- 保険会社が治療費の支払いを打ち切ろうとしている場合
- 相手方が無保険で、賠償能力に不安がある場合
自転車事故で大きな怪我をしたときは、弁護士に早めに相談して、後遺障害の主張を視野に入れた対応をとることをお勧めします。
おわりに
2026年4月1日に施行された道路交通法第18条の改正により、自動車が自転車を追い越す際の側方間隔の確保と減速が法律上の義務として明文化されました。この新ルールは、自転車の安全を守るための重要な一歩であり、事故が発生した際の過失割合の判断にも大きな影響を与える可能性があります。
自動車側には1.5メートル程度の間隔確保または徐行が求められ、違反した場合には反則金7,000円、違反点数2点という罰則が設けられています。一方、自転車側にも左側端に寄る義務があり、双方が協力して安全な道路環境を作ることが期待されています。
交通事故の被害に遭った場合、新ルール違反の有無は過失割合を判断する上で重要な要素となります。保険会社との交渉では、この新ルールを踏まえた主張を行うことで、より適正な賠償を受けられる可能性が高まります。
当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。