交通事故に遭い、ケガの治療に追われながら、加害者側の保険会社から示談金の提示を受ける——そのような状況に置かれた被害者の方の多くが、「この金額は本当に正しいのだろうか」「慰謝料というのはどうやって決まるのか」と疑問を抱えながらも、専門知識がなければどこから調べればよいかもわからず、不安なまま日々を過ごしていることと思います。特に北海道・札幌では、冬の雪道や凍結路面による事故も多く、予期せぬ形で被害者となってしまうケースも少なくありません。
交通事故の賠償金の中でも、「慰謝料」は被害者の精神的な苦痛に対して支払われるお金です。慰謝料には種類があり、どの計算基準を使うかによって、受け取れる金額が数倍以上も変わることがあります。保険会社が最初に提示する金額が適正額であるとは限らず、実際には多くのケースで、弁護士が介入することで増額が実現しています。
また、2020年(令和2年)4月1日には民法改正と自賠責保険の支払基準改定が施行され、慰謝料の計算方法や消滅時効に関するルールが変更されました。この改正以降に発生した事故については、新しい基準が適用されるため、正確な知識を持つことが重要です。
今回のコラムでは、交通事故の慰謝料の種類(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)と、3つの計算基準(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)の違い、増額・減額に影響する事情、そして保険会社との交渉における注意点について、弁護士の立場からわかりやすく解説します。
交通事故の慰謝料とは何か——法的根拠と3つの種類
慰謝料の法的根拠
交通事故被害者が加害者に損害賠償を請求する法的根拠は、主に民法709条(不法行為による損害賠償)および民法710条(財産以外の損害の賠償)にあります。
民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定し、民法710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合…前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と定めています。この民法710条が、精神的苦痛を金銭で補填する「慰謝料」請求の根拠となっています。
また、自賠法(自動車損害賠償保障法)3条は運行供用者(車の所有者など)に対する請求を定めており、被害者側で加害者の過失を立証する必要がなく、加害者側が無過失を立証しない限り責任を負うという、立証責任の転換が認められています。これにより、交通事故の被害者はより手厚い保護を受けることができます。
慰謝料の3つの種類
交通事故の慰謝料は、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3つに分類されます。それぞれの内容を以下で確認しましょう。
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料):ケガの治療のために通院・入院した期間に応じて支払われる慰謝料
- 後遺障害慰謝料:症状固定後に残った後遺症の程度に応じて支払われる慰謝料
- 死亡慰謝料:被害者が亡くなった場合に支払われる慰謝料
また、被害者の近親者、あるいは死亡事故でなくても、被害者に重度の後遺障害が残ったような場合に、近親者固有の慰謝料(近親者慰謝料)が認められることもあります。これは、近親者が受けた精神的苦痛を別途補填するものです。
慰謝料の3つの計算基準——自賠責・任意保険・弁護士基準の違い
なぜ基準によって金額が変わるのか
交通事故の賠償金を算定する基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3つがあり、どの基準を用いるかによって慰謝料額が変わってきます。自賠責基準は3つの基準の中で最も低額な慰謝料となることが多いです。
任意保険基準は各任意保険会社がそれぞれ独自に設けた基準で、一般に公開されていません。自賠責基準で算定される金額を少し上回る金額が算定される傾向にあります。弁護士基準は過去の裁判例をもとに設定された基準であり、裁判のほか、弁護士に示談交渉を依頼した際に使われます。弁護士基準は被害者が本来受け取るべき金額と言え、3つの基準の中で最高額になる基準です。
自賠責基準・弁護士基準の具体的な計算方法
【自賠責基準の入通院慰謝料】
自賠責保険基準による入通院慰謝料の計算方法(2020年4月1日改定)は、「1日あたり4,300円 × 通院期間もしくは日数」です。通院日数は「通院期間(事故日から完治または症状固定日まで)」と「実通院日数×2」のいずれか少ない方で計算されます。
2020年3月31日までに発生した事故の場合、自賠責保険の入通院慰謝料の日額は4,200円でした。2020年4月1日以降の事故では4,300円に改定されています。また、自賠責保険が負担する損害賠償の上限は、入通院慰謝料を含む傷害分(治療費や休業損害等)について120万円となっています。120万円を超過する場合、超過分を任意保険会社に請求しなければなりません。
【弁護士基準の入通院慰謝料】
弁護士基準で入通院慰謝料を計算する場合は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)等に掲載されている入通院慰謝料の算定表を用います。通常の怪我の場合は【別表Ⅰ】を、むちうちで他覚所見のない場合や比較的軽傷の場合は【別表Ⅱ】を使用し、横軸の入院期間と縦軸の通院期間が交わる部分が慰謝料の金額となります。
たとえば、骨折をして1か月間入院し、その後4か月間通院したケースの入通院慰謝料(裁判所基準)は130万円となります。また、むちうち症になって3か月間通院したケースだと、入通院慰謝料(裁判所基準)は53万円です。
【後遺障害慰謝料の基準別比較】
自賠責基準では第14級について支払われる32万円から、第1級(自動車損害賠償保障法施行令別表第1)について支払われる1,650万円までで、各等級に応じて決定されます。弁護士基準では第14級の後遺症慰謝料は110万円が一つの目安であり、第1級の後遺症慰謝料は2,800万円が目安とされています。
【死亡慰謝料の弁護士基準】
裁判所基準(弁護士基準)では、一家の支柱:2,800万円、母親・配偶者:2,500万円、その他(独身・子ども・幼児等):2,000万〜2,500万円が目安です(日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」いわゆる赤い本による。いずれも被害者本人分と近親者固有の慰謝料(民法711条)を合わせた金額)。
慰謝料が増額・減額されるケースとは
慰謝料が増額される主な事由
慰謝料は一律に決まるものではなく、事故の状況や加害者の態度によって、算定基準よりも増額されることがあります。
以下のような事情がある場合には、加害者の運転行為が悪質であると評価されて慰謝料が増額される可能性があります。
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 飲酒運転
- 居眠り運転
- 著しいスピード違反
- あおり運転
また、反省の態度が一切ない、被害者に対して暴言を吐く、警察の取り調べで虚偽の供述をするなど、加害者の事故後の態度や行動が悪質であると評価された場合にも、慰謝料が増額される可能性があります。
北海道・札幌のように冬道の事故が多い地域では、スリップ事故でも速度超過や車間距離不保持など加害者に重大な過失が認められるケースがあります。事故の状況を記録・保存しておくことが、増額交渉においても重要な意味を持ちます。
慰謝料が減額される主な事由
一方で、被害者側の事情によって慰謝料が減額される場合もあります。代表的なものは過失相殺です。たとえば、被害者にも一定の過失(信号無視・飛び出しなど)があった場合、その過失割合に応じて損害賠償額が減額されます。
また、通院期間と比較して通院日数が極端に少ない場合には、治療の必要性がないと加害者側の保険会社に判断され、慰謝料が減額される可能性があります。通院の頻度については医師の指示に従い、適切なペースで継続することが大切です。
保険会社との交渉における重大な注意点
保険会社の示談提示額は「最低限」の可能性がある
交通事故の治療が終わると、加害者側の任意保険会社から示談金の提示がなされます。しかし、この提示額をそのまま受け入れることには大きなリスクがあります。
交通事故被害者のほとんどは、相手の保険会社の提示してきた金額は、これ以上変えようのない金額なのだろうと考えてしまうようです。しかし実際には、裁判基準に比べて慰謝料がかなり低額であったり、休業補償の支払期間や単価が不当に低く計算されていたり、逸失利益の計算方法に問題がある保険会社の示談提示をよく目にします。特に、慰謝料は、ほぼ全ての事案で、裁判基準より相当程度低い金額が提示されているのが実情です。
保険会社の懐が痛むのは、原則として自賠責保険基準を超える部分についてのみです。早期に、低い金額で事件を解決していく担当者が保険会社内では優秀であると評価されますから、保険会社の担当者は、あの手この手を使って、示談金を自賠責保険基準に近づけるよう努力をします。
弁護士に依頼するメリットと対応手順
弁護士に依頼すれば、示談金を弁護士基準で算定し、慰謝料や休業損害などの増額が期待できます。また、交渉の窓口を弁護士に一本化できるため、保険会社とのやり取りから解放されます。治療や仕事に専念できるため、精神的負担の軽減も大きなメリットとなります。
保険会社から示談提示を受けた場合は、すぐにサインせず、以下のステップで対応することをお勧めします。
- 示談書の内容を細かく確認する(慰謝料・休業損害・逸失利益の各項目を個別にチェック)
- 弁護士基準での金額と比較する(相談の段階で確認可能)
- 弁護士に交渉を依頼する(弁護士費用特約があれば自己負担なしで依頼できる場合も)
- 交渉が決裂した場合は調停・訴訟も選択肢に入れる
なお、示談書に一度サインしてしまうと、原則として後から金額を変更することはできません。示談前に必ず弁護士に確認することが最重要ポイントです。
慰謝料請求権の消滅時効——いつまでに請求すべきか
2020年民法改正で時効期間が5年に延長
慰謝料を含む損害賠償請求権には消滅時効があります。時効が成立すると、権利が消滅して請求できなくなるため、注意が必要です。
2020年4月1日の民法改正によって不法行為の中でも人の生命又は身体を害する不法行為の場合には、時効は3年ではなく5年とされました(民法724条の2)。したがって、交通事故において、ケガをした部分の損害賠償請求権の時効は5年で、物損(車の修理費用など)の損害賠償請求権の時効は3年ということになります。
同じ交通事故でも、車の修理費など物に対する損害賠償請求権の時効は3年のままであることには注意が必要です。
後遺障害がある場合の時効の起算点
後遺障害が残ってしまった場合に、後遺障害を原因とする慰謝料や逸失利益については、症状固定日から5年と考えるのが実務上の一般的な扱いです。これは、症状固定となるまでは後遺障害の内容・程度が確定せず、「損害を知った」といえないという考え方によります。ただし、時効の起算点については事案によって争いになる可能性があるため、保守的には事故日の翌日から5年と考えて早めに行動することが推奨されます。
時効成立前であっても、できるだけ早期に弁護士へ相談することが、適正な慰謝料を獲得するための第一歩となります。証拠の収集や保全、後遺障害等級の申請サポートなど、時間が経過するほど対応が難しくなる問題が多いためです。
おわりに
今回のコラムでは、交通事故の慰謝料の種類と計算方法について解説しました。重要なポイントをまとめます。
- 慰謝料は民法710条・自賠法3条を根拠とし、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類がある
- 計算基準は「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあり、弁護士基準が最も高額になる
- 自賠責基準の入通院慰謝料は日額4,300円(2020年4月1日以降の事故)で、弁護士基準と比べると大幅に低額となる傾向がある
- 飲酒運転・ひき逃げ・あおり運転などの悪質な事情がある場合は増額事由として考慮される可能性がある
- 保険会社の示談提示額は裁判基準より低額であることが多く、サイン前に必ず確認することが重要
- 人身損害の消滅時効は民法724条の2により5年(2020年4月1日改正施行)
当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。