交通事故に遭い、相手方の保険会社から「あなたにも過失があります」と言われた経験はないでしょうか。突然の事故で体も心も疲弊しているなかで、「過失割合○対○」という数字を突きつけられ、何が何だかわからないまま示談を迫られるケースは少なくありません。「自分は被害者なのに、なぜ自分の過失が問われるの?」「保険会社が提示してきた割合は本当に正しいの?」——そんな疑問や不安を抱えている方は、ぜひこのコラムをお読みください。
過失割合は、最終的に受け取れる損害賠償金の額を直接左右する、非常に重要な数字です。たとえ総損害額が1,000万円であっても、被害者の過失割合が20%と認定されれば、受け取れるのは800万円になります。過失割合がわずか1割変わるだけで、数十万円から数百万円の差が生じることもあります。にもかかわらず、この割合の決め方を正確に知っている一般の方はほとんどいないのが現実です。
また、北海道・札幌では、冬期間の雪道・凍結路面での交通事故が多く発生します。「雪道だったから仕方ない」という感覚を持ちやすいですが、雪道事故においても過失割合の算定は行われ、場合によっては路面状況が修正要素として考慮されることがあります。こうした地域特有の問題も含め、正しい知識を持つことが大切です。
今回のコラムでは、交通事故の過失割合とは何か、どのように決まるのか、保険会社の提示に納得できない場合にどう対処すればよいかについて、わかりやすく解説します。
交通事故の過失割合とは何か?法律上の根拠とともに解説
過失割合・過失相殺とはどういう意味?
「過失割合」とは、交通事故の発生に対する被害者と加害者それぞれの責任(不注意・過失)の割合のことです。「加害者80:被害者20」のように、双方の割合を数字で表し、合計は常に100%になります。
この仕組みの法律上の根拠は、民法第722条2項にあります。同条は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と規定しており、これを「過失相殺」(かしつそうさい)といいます。つまり、被害者側にも落ち度(過失)があった場合は、その分だけ損害賠償額が減額される、という制度です。
また、自動車事故の場合、自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条が適用され、加害者側に「自己に故意・過失がないこと」の立証責任が課されるなど、被害者保護が厚く規定されています。さらに自賠法第4条により、自賠法と民法の両方の規定が組み合わさって交通事故問題の解決が図られることになります。
さらに、交通事故における「過失」とは具体的には道路交通法上の注意義務違反を指します。たとえば速度違反(道路交通法22条違反)、進路変更時の合図不履行(同法53条1項違反)などが過失の根拠となります。
過失割合は誰が決めるのか?
「過失割合は警察が決める」と思っている方が多いですが、これは誤解です。警察は事故状況を調査して刑事責任を判断しますが、民事上の過失割合を決定する権限はありません。
実務では、過失割合は次のいずれかの方法で決まります。
- 当事者(保険会社)同士の示談交渉:最も一般的な方法。双方の保険会社が話し合い、合意によって決定します。
- ADR(裁判外紛争解決手続):示談がまとまらない場合に、中立の第三者機関が仲介します。
- 民事調停・訴訟:調停や裁判所の判決によって最終的に決定されます(民法722条2項参照)。
重要なのは、過失割合は「当事者双方の合意」によって決まるものであり、保険会社が一方的に決定できるものではないという点です。保険会社の提示はあくまでも「申し出」に過ぎません。
過失割合はどのように決まるのか?判断基準と具体的な決め方
「判例タイムズ」が実務の基準となっている
過失割合の決定に際して、実務上広く使われている基準書が『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕』(別冊判例タイムズ38号、通称「緑の本」)です。弁護士・裁判所・保険会社のいずれもがこの基準を参照して過失割合を判断しています。
この基準書には、事故の類型ごとに「基本過失割合」が定められています。たとえば代表的な例として、以下のような目安があるとされています。
- 追突事故:被害者0%・加害者100%が原則
- 直進車と右折車の事故(信号のある交差点):被害者20%・加害者80%が目安
- 出会い頭の事故(信号なし、同じ幅の道路):双方50%ずつが目安
- 歩行者対自動車(横断歩道上):歩行者0%・自動車100%が原則
ただし、これはあくまでも「基本」の割合です。実際には事故当時の個別具体的な事情によって、この基本割合に「修正」が加えられます。
過失割合を変える「修正要素」とは
基本過失割合をそのまま使うのではなく、個別事情に応じて加算・減算を行うのが「修正要素」です。修正幅は自動車同士の事故であれば概ね5%〜20%程度とされています。主な修正要素には以下のようなものがあります。
- 著しい過失:わき見運転、時速15km以上30km未満の速度超過など、通常想定を超える過失(過失割合に加算)
- 重過失:居眠り運転、無免許運転、時速30km以上の速度超過など(大幅な加算)
- 夜間:夜間(日没〜日出)に発生した事故では、歩行者の視認性が変わるため、加算要因となる場合がある
- 歩行者の属性:高齢者・幼児・身体障がい者などの交通弱者は、保護の観点から過失割合が減算される場合がある
- 自転車のながらスマホ・飲酒:2024年11月1日施行の改正道路交通法により刑事罰の対象となり、過失割合に10〜20%程度加算される可能性があるとされています
修正要素を正しく把握できなければ、本来より不利な過失割合のまま示談してしまう危険があります。修正要素の適用を主張するためには、それを裏付ける証拠の収集と立証が欠かせません。
北海道・札幌の雪道事故と過失割合の注意点
「雪道だから仕方ない」は過失割合に自動的に反映されない
北海道は広大な土地に都市が分散しており、道路交通への依存度が高い地域です。降雪・吹雪・路面凍結などの冬季現象が交通事故の大きな原因となっており、冬期間は事故リスクが特に高まります。
雪道での事故に遭った場合、「雪が降っていたから」「路面が凍っていたから」という理由だけで、過失割合が自動的に有利に修正されるわけではありません。重要なのは、雪道という状況下で各当事者がどのような運転行動をとったか、どれだけの注意義務を果たしていたかという点です。
ただし、以下のような雪道特有の事情は、修正要素として考慮される可能性があります。
- 積雪による道幅の変化:交差点での出会い頭事故では双方の道幅が過失割合に影響するが、雪道では積雪後の実際の道幅が考慮されることがある
- 降雪による道路標識の視認性低下:雪で道路標識が見えにくい状態だった場合、「標識なし」として過失割合が算定されることがある
- 冬タイヤ未装着:スタッドレスタイヤを履いていないなど、雪道での通常の注意義務を怠った場合は、過失の加算要因となる可能性があります
雪道事故では証拠の保全がとりわけ重要です。積雪・凍結状況は時間とともに変化しますので、現場写真・ドライブレコーダー映像・気象データなどをできる限り早く確保することが、適正な過失割合の主張につながります。
保険会社の提示する過失割合に注意すべき理由
保険会社の提示は「確定した数字」ではない
交通事故後、相手方の保険会社から過失割合の提示があると、多くの被害者は「そういうものだろう」と受け入れてしまいがちです。しかし、加害者側の保険会社が提示してくる過失割合が、被害者にとって妥当であるとは限りません。保険会社も交渉相手であり、できるだけ支払額を抑えようとする立場にあることを忘れてはなりません。
また、自分の任意保険会社を通じて交渉を任せた場合も、保険会社同士の馴れ合いや、双方の契約者が同じ保険会社である場合には、必ずしも被害者にとって最善の交渉をしてくれるとは限らない可能性があります。
過失割合に納得できない場合の具体的な対処手順
提示された過失割合に疑問を感じたら、以下のステップで対処することをお勧めします。
- ① 根拠を確認する:担当者に「なぜこの過失割合になるのか、根拠を教えてください」と必ず質問しましょう。理由を明示させることが第一歩です。
- ② 証拠を集める:ドライブレコーダーの映像、防犯カメラの映像、目撃者の証言、実況見分調書のコピーなど、事故状況を証明できる証拠を確保してください。証拠があれば、保険会社の不当な主張に対抗できる可能性が大きく高まります。
- ③ 示談前に弁護士に相談する:交通事故に詳しい弁護士であれば、実況見分調書・過去の裁判例・修正要素をもとに適切な過失割合を算定し、保険会社の提示の妥当性を判断することができます。弁護士は刑事記録の取得も可能であり、事故状況の立証に強力なサポートができます。
- ④ ADR・調停・訴訟を活用する:示談交渉がまとまらない場合は、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターといったADR機関(裁判外紛争解決手続き)を利用することができます。ADRの和解あっせんは弁護士が担当するため、適切な過失割合・弁護士基準の賠償額で計算された和解案が提示されます。ADR機関の審査結果は相手方保険会社が不服を述べることができない仕組みとなっています。それでも解決しない場合は、民事調停や訴訟という手段もあります。
絶対に避けてほしいのは、内容を十分に理解しないまま示談書にサインしてしまうことです。一度示談が成立すると、原則として後から覆すことはできません。少しでも疑問を感じたら、署名前に弁護士に確認することを強くお勧めします。
過失割合と損害賠償額の関係|具体例で理解する
1割の違いが大きな金額差を生む
過失割合がいかに賠償金に影響するかを、具体的な数字で確認しましょう。
たとえば、治療費・慰謝料・休業損害などを合計した損害総額が1,000万円の事故があったとします。
- 被害者の過失割合が0%の場合 → 受け取れる賠償金:1,000万円
- 被害者の過失割合が10%の場合 → 受け取れる賠償金:900万円(100万円の減額)
- 被害者の過失割合が20%の場合 → 受け取れる賠償金:800万円(200万円の減額)
- 被害者の過失割合が30%の場合 → 受け取れる賠償金:700万円(300万円の減額)
このように、損害額が大きいほど、過失割合が賠償金に与えるインパクトも大きくなります。保険会社が提示する過失割合を「そんなものか」と受け入れてしまうと、本来もらえるはずだった賠償金を大幅に失うことになりかねません。
過失割合の争いを弁護士に依頼するメリット
過失割合を適正に争うためには、専門知識と交渉力の両方が必要です。弁護士に依頼することには以下のメリットが考えられます。
- 刑事記録(実況見分調書など)を取得し、事故状況を客観的に明らかにできる
- 過去の裁判例・修正要素を精査し、適正な過失割合を算定できる
- 法的根拠に基づいて保険会社と交渉でき、交渉力が格段に上がる
- ADR・調停・訴訟への対応もスムーズに行える
- 弁護士費用特約(任意保険に付帯している場合)を使えば、自己負担なく依頼できることも多い
「弁護士に頼むほどのことではないかもしれない」と思う方も多いかもしれませんが、過失割合1割の修正が数十万〜数百万円の差になることを考えると、早期に専門家に相談することは決して大げさではありません。
おわりに
今回のコラムでは、交通事故の過失割合について、法律上の根拠(民法722条2項・自賠法3条)から始まり、判例タイムズを基準とした決め方、修正要素の仕組み、北海道・雪道事故特有の注意点、保険会社への対処法と賠償金への影響まで解説しました。
重要なポイントをまとめます。
- 過失割合は民法722条2項の過失相殺に基づき、損害賠償額を大きく左右する
- 過失割合を決めるのは警察ではなく、当事者の合意(または裁判所の判断)である
- 実務では判例タイムズの基本過失割合+修正要素で決定される
- 北海道・雪道事故では積雪・視認性・冬タイヤなどが修正要素として考慮される可能性がある
- 保険会社の提示は確定ではなく交渉の余地がある。示談前に必ず内容を精査する
- 納得できない場合は証拠収集→弁護士相談→ADR・訴訟という流れで対処できる
当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。