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交通事故

第22回交通事故コラム 弁護士基準・任意保険基準・自賠責基準の違いとは

交通事故に遭い、ようやく治療が一段落したと思ったら、今度は保険会社から示談金の提示書類が届いた——そんな経験をされている方も多いのではないでしょうか。書類を見ても「この金額は適正なのだろうか」「もっともらえるはずではないのか」という疑問が頭をよぎるものの、どこに基準があるのかがわからず、不安なままサインしてしまう被害者の方は少なくありません。

実は、交通事故の慰謝料や示談金には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という3つの計算基準が存在し、どの基準を使うかによって受け取れる金額が大きく異なります。保険会社が最初に提示してくる金額は、多くの場合この3つのうち最も低い基準で計算されています。知らずにそのまま示談に応じてしまうと、本来受け取れるはずの賠償金を大幅に損してしまう可能性があります。

また、令和2年(2020年)4月1日には自賠責保険の支払基準が改正され、民法改正に伴う法定利率の変更(年5%から年3%へ)に連動して、逸失利益の計算方法なども変わりました。事故の発生日がいつかによって適用される基準が異なる点にも注意が必要です。

今回のコラムでは、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準それぞれの仕組みと計算方法の違い、そして保険会社との交渉で弁護士に依頼することの意味について、できるだけわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みいただき、適正な賠償金を受け取るための判断材料にしてください。

慰謝料の3つの基準とは?――自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の概要

交通事故の賠償金(慰謝料)を計算するにあたっては、大きく分けて3つの基準が使われます。それぞれの基準には根拠と特徴があり、被害者にとって有利な順番は明確に決まっています。

3つの基準の位置づけ

  • 自賠責基準(最低限の補償):国が法律に基づいて定めた最低限の基準。自賠責保険は、自動車損害賠償保障法に基づき、自動車の運行供用者に加入が義務付けられている強制保険です。この基準は3つの中で最も低額です。
  • 任意保険基準(保険会社独自の基準):任意保険基準は保険会社が定めているもので、現在は公式の計算式は公開されていません。一般的には、自賠責基準よりも高く、裁判基準より低いものとされています。
  • 弁護士基準・裁判基準(最も高額な基準):弁護士基準(裁判基準)は、3つの基準の中で最も高額な基準です。過去の裁判例の集積であるいわゆる赤い本『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)』(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編)に定めのある基準です。

つまり、弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準という順番で金額が高くなります。被害者が本来受け取るべき適正な賠償金は、弁護士基準(裁判基準)で計算された金額だと考えられています。

令和2年(2020年)の法改正と支払基準の改定

自賠責保険から支払われる保険金は、金融庁・国土交通省の告示である支払基準によって定められています(自賠法16条の3)。この支払基準は都度改正されますが、最新の改正が2020年(令和2年)4月1日に施行されました(同日以降の交通事故に適用されます)。

2020年4月施行の改正民法により、法定利率が引き下げられたことで、中間利息控除の計算で用いられる「ライプニッツ係数」も変更されました。ライプニッツ係数とは、将来受け取るべき収入を現在の価値に換算するための数値であり、法定利息の引下げは、ライプニッツ係数の引上げを意味するので、逸失利益を請求する側(被害者)にとっては有利な変更です(受け取れる金額が増額されます)。事故の発生日が令和2年4月1日以前か以降かで適用基準が変わりますので、ご自身の事故日を必ずご確認ください。

自賠責基準とは何か?――計算方法と限界

自賠責基準は、交通事故被害者が最低限の補償を確実に受けられるよう、国が設けた強制保険の計算基準です。すべてのドライバーに加入が義務付けられているため、加害者に資力がない場合でもこの範囲内では補償を受けることができます。

入通院慰謝料の計算方法

自賠責基準での入通院慰謝料は1日につき4,300円と定められています(令和2年4月1日以降の事故)。この日額に下のいずれか「少ない方」の日数をかけた金額が自賠責保険基準での慰謝料金額になります。

  • 初診から治療終了までの期間(総治療期間)
  • 実際の通院日数の2倍

たとえば、治療期間が120日で実通院日数が50日の場合、総治療日数(120日)よりも実通院日数の2倍(100日)のほうが少ないため、100日×4,300円=43万円が自賠責基準の入通院慰謝料となります。

自賠責基準の上限額と過失相殺の特例

支払限度額は、積極損害・休業損害・慰謝料を合わせて、被害者1人につき120万円です(自賠法施行令第2条第1項)。この上限を超えた損害については、任意保険や弁護士交渉による賠償が必要となります。

また、自賠責保険には重要な特例があります。自賠責保険は、被害者に7割以上の重大な過失があった場合にのみ減額されます。減額割合も、傷害に係るものは2割、後遺障害・死亡に係るものは最大で5割にとどまります。一方、弁護士基準や任意保険基準では厳格な過失相殺が行われる点も重要です。

任意保険基準とは何か?――保険会社が提示する金額の実態

任意保険基準は、各損害保険会社が独自に設定している基準です。かつては全損害保険会社共通の計算基準が公表されていましたが、現在は各社が非公開で独自に設定しています。

任意保険基準の金額水準

任意保険は自賠責保険の上乗せとして存在する保険ですから、自賠責基準よりは高い金額になります。しかし、任意保険会社は、支払う保険金額が低額であればあるほど、自社の利益が大きくなりますから、任意保険基準に基づき計算される交通事故の慰謝料は、被害者側から見れば低額で不適切であることが多いです。

具体的な比較として、通院1ヶ月(重傷)の場合を例にとると、自賠責基準12.9万円、任意保険基準22.2万円、弁護士基準28万円という目安があります。任意保険基準は自賠責基準より高いものの、弁護士基準には大きく及びません。

保険会社の提示には注意が必要

保険会社から最初に提示される示談金は、ほとんどの場合「任意保険基準(または自賠責保険基準)」で計算されています。彼らは営利企業であるため、自社の支出(支払う示談金)を抑えるために、意図的に低い基準を用いて計算した金額を提示してくるのです。

北海道・札幌では、冬期間の雪道・凍結路での事故が特に多く発生します。スリップ事故や追突事故の場合、過失割合の認定が夏道の事故と異なるケースがあり、保険会社側が被害者の過失を高めに設定してくる場面も見受けられます。保険会社からの提示をそのまま受け入れる前に、必ず内容を精査することが重要です。

弁護士基準(裁判基準)とは何か?――最も適正な賠償金を実現する基準

弁護士基準(裁判基準)は、過去の裁判例を積み重ねた結果として形成された、最も被害者の実態に即した基準です。弁護士が示談交渉に介入する際や、裁判になった場合に適用されます。

「赤い本」に基づく計算

弁護士(裁判)基準は過去の裁判例を踏まえた基準で、最も高額な慰謝料が認められやすい点が特徴です。弁護士(裁判)基準の金額は、『損害賠償額算定基準』(日弁連交通事故相談センター東京支部発行)に記載されています。この書籍は表紙の色から通称「赤い本」と呼ばれ、弁護士や裁判所が慰謝料額の目安として広く参照しています。

入通院慰謝料については、弁護士基準では実通院日数ではなく通院期間(月数)が重視されます。同じ通院期間でも、軽傷(むちうち等)か重傷(骨折等)かによって適用される基準表が異なります。

後遺障害慰謝料は基準によって大きく異なる

事故による後遺症が残った場合に認定される「後遺障害」の慰謝料は、等級(1級~14級)ごとに金額が異なりますが、適用基準によっても大きな差が生じます。

  • 後遺障害14級(むちうちなど)の場合:後遺障害14級の後遺障害慰謝料の相場は、自賠責基準だと32万円、弁護士基準だと110万円です。自賠責基準と弁護士基準では、3倍以上の差があると分かります。
  • 後遺障害1級の場合:第1級が認定された場合、慰謝料(裁判所基準)は2,800万円、慰謝料(自賠責基準)は1,100万円であり、その差は1,700万円にも及びます。
  • 弁護士基準全体の傾向として:後遺障害慰謝料は最低の等級でも110万円、最も高い等級では2,800万円ほどとなります。

後遺障害慰謝料のほか、将来の収入喪失に対する「逸失利益」についても、弁護士基準では適正に計算されます。等級が同じでも、被害者の年齢や職業・収入によって逸失利益の金額は大きく変わります。

保険会社との交渉で弁護士基準を実現するためのポイント

「弁護士基準が最も高い」とわかっても、被害者が自分で保険会社に「弁護士基準で払え」と要求しても、実務上はほとんど認められないのが現実です。

弁護士介入によって基準が変わる理由

保険会社は弁護士が示談に介入しないケースでは自賠責保険基準や任意保険基準を使って被害者に示談金を提示してきます。弁護士が示談交渉に介入することで、保険会社は慰謝料の算定を裁判基準に切り替えるので多くの場合で示談金額が増額します。

また、被害者自身で保険会社に「裁判基準で算定した示談金を支払え」と交渉しても、保険会社の担当者は「これ以上慰謝料を増やしたいなら弁護士を入れてください」と言って拒否してくることがほとんどです。

具体的な対応手順と注意点

  • 示談書にサインする前に確認する:保険会社から示談金の提示書類が届いても、すぐにサインする必要はありません。一度弁護士に内容を確認してもらいましょう。示談が成立してしまうと、原則として後から金額を変更することはできません。
  • 提示金額の内訳を確認する:示談金は慰謝料だけでなく、治療費、休業損害、逸失利益など、様々な項目の合計額です。基準の違いだけでなく、各項目の計算自体が被害者に不利にされているケースも多々あります。
  • 弁護士費用特約を活用する:自動車保険に「弁護士費用特約」が付いている場合、弁護士費用(着手金・報酬金など)を保険でカバーできることがあります。加入している保険の内容を確認してみましょう。
  • 治療中に示談を急かされた場合:保険会社から早期の示談を求められるケースがありますが、治療が終了する前(症状固定前)に示談に応じてしまうと、その後に後遺症が判明しても追加請求が難しくなる可能性があります。治療が完全に終わってから示談交渉を行うことが原則です。
  • 後遺障害認定の手続きを適切に行う:後遺障害が認定されるかどうかで、受け取れる慰謝料の額は大幅に変わります。認定申請の方法(被害者請求か事前認定か)や、医師への症状の伝え方・診断書の内容についても、弁護士と相談しながら進めることをお勧めします。

なお、保険会社は法律や約款、そして判例や社内の前例に倣うというルールがあり、担当者が意のままに損害賠償額を決めることはできないこととなっています。これは逆に言えば、しっかりとした根拠と適切な資料があれば、保険会社はどんなに高額な損害賠償金でも払わざるを得ないということです。弁護士に依頼することは、単に「強い味方がつく」という話ではなく、適正な法的根拠をもって交渉できるという意味で、被害者にとって本質的なメリットがあります。

おわりに

今回のコラムでは、交通事故の慰謝料・示談金を計算する3つの基準——自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)——の違いについて解説しました。

重要なポイントを改めて整理します。

  • 自賠責基準は国が定めた最低限の補償。1日4,300円の日額計算で、傷害の支払限度額は120万円(自賠法施行令第2条第1項)。
  • 任意保険基準は各保険会社が非公開で設定。自賠責基準よりは高いが、弁護士基準には及ばず、初回提示はこの基準が使われることが多い。
  • 弁護士基準(裁判基準)は「赤い本」等の裁判例を根拠とした最も高額な基準。後遺障害14級で比べると自賠責基準の約3倍以上になることも。
  • 令和2年(2020年)4月1日以降に発生した事故には改正後の支払基準が適用され、逸失利益の計算に使うライプニッツ係数も変更されている。
  • 保険会社が弁護士基準に応じるのは、弁護士が介入した場合がほとんど。被害者自身での交渉では限界がある。

「提示された金額が正しいのかどうかわからない」「後遺障害が残りそうで今後が不安」——そのようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度専門家にご相談ください。

当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。

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