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交通事故

第19回交通事故コラム 高次脳機能障害と交通事故|認定のポイントと注意点

交通事故で頭部に強い衝撃を受けた後、「以前より怒りっぽくなった」「物忘れが激しくなった」「計画を立てて行動することができなくなった」と感じていませんか。あるいは、ご家族の方が「事故の後から人が変わってしまったようだ」と心配されているかもしれません。こうした変化は、一見すると「性格の問題」や「気持ちの落ち込み」に見えがちですが、実は交通事故による脳へのダメージが原因で起こる「高次脳機能障害」の可能性があります。

高次脳機能障害は、外見からはわかりにくい障害です。外見では分かりにくい一方で、記憶力や判断力、感情コントロールなどに大きな影響が出るため、本人も周囲も日常生活に大きな支障をきたすことがあります。そのため、適切な後遺障害認定を受けられないまま、十分な補償を得られずにいる被害者の方が多く存在します。特に札幌・北海道では、冬道での追突事故や凍結路での衝突事故が後を絶たず、頭部外傷を負うケースも少なくありません。このような事故では、事故直後の処置に追われる中で、高次脳機能障害の症状が見逃されてしまうことがあります。

自賠責保険においては、平成13年より高次脳機能障害について後遺障害として認定するためのシステムを確立し、実施・運営されています。しかし、認定を受けるためには通常の後遺障害とは異なる独自の手続きが必要であり、準備が不十分なために本来受けられるべき補償を得られないケースが後を絶ちません。

今回のコラムでは、交通事故による高次脳機能障害について、その定義・認定の要件・後遺障害等級・請求できる賠償金・保険会社との交渉における注意点まで、被害者の方やご家族が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

高次脳機能障害とは何か?交通事故との関係

高次脳機能障害の定義と典型的な症状

高次脳機能障害とは、自動車事故などで脳の器質が損傷され、一定期間以上意識障害があり、CTやMRIでの画像診断で急性期の所見があり、慢性期には脳室拡大と脳の萎縮が見られ、認知障害とともに人格障害が発症し、仕事や日常生活に支障をきたす障害です。

脳外傷による高次脳機能障害の典型的な症状としては、以下のものが挙げられます。

  • 認知障害:記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害など。新しいことを覚えられない、気が散りやすい、行動を計画して実行することができないなどの状態が生じます。
  • 行動障害:周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、職場や社会のマナーやルールを守れない、行動を抑制できないなど。
  • 人格変化:感情易変、不機嫌・攻撃性・暴言、暴力、羞恥心の低下、幼稚、多弁、自発性・活動性の低下、被害妄想など。

重要なのは、高次脳機能障害の被害者は、本人自身は脳外傷が治ったと考えて、後遺症を自覚していないケースがあるという点です。そのため、ご家族が「本人の性格が変わっていないか」「一定の症状が出ていないか」を注意深く観察し、記録しておくことが非常に重要になります。

医学的診断と自賠責保険における「高次脳機能障害」の違い

ここで注意していただきたいのは、医師が「高次脳機能障害」と診断したからといって、そのまま自賠責保険で後遺障害として認定されるわけではないという点です。医学的に「高次脳機能障害」とされていても、必ずしも自賠責保険(共済)において「高次脳機能障害」として等級認定されるとはかぎりません。

自賠責保険(共済)における高次脳機能障害は、一般的には、自動車事故などで脳が損傷され、一定期間以上意識が障害された場合に発生し、CT・MRIなどの画像診断で脳損傷が認められることを前提としており、認知障害や人格障害により、日常生活や社会生活に制限がある状態を指します。この認定基準の違いが、被害者の方が「なぜ補償を受けられないのか」と悩む原因になることがあります。

後遺障害認定を受けるための3つの要件

要件①:受傷直後の意識障害の確認

高次脳機能障害として後遺障害に認定されるためには、以下の3点を証明する必要があります。まず、高次脳機能障害は、意識を消失するような頭部外傷を負った場合に発症しやすいとされており、事故後に意識を失ったということは、脳に何らかの損害が及んだのではないかと考えられます。

高次脳機能障害は初診時に意識障害が認められるかが重要です。その受傷直後における意識障害の程度や継続時間を明らかにするため、具体的には「頭部外傷後の意識障害についての所見」という書面を提出することになります。この書面は、「JCS(正式名称:Japan Coma Scale)」又は「GCS(正式名称:Glasgow Coma Scale)」という基準に基づいて作成されます。

要件②:CT・MRIによる画像所見、要件③:後遺症状の存在

脳損傷が認められる場合の傷病名としては、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、脳挫傷、びまん性軸索損傷などがあります。これらが画像上で確認されることが原則として必要です。

ただし、頭部外傷が比較的軽度な場合において、高次脳機能障害の症状として典型的な症状である認知障害、行動障害、人格変化の全部または一部が現れているけれども、MRIやCT等の画像には脳の損傷等の存在が認められないという事例が見られます。このような「軽症頭部外傷(MTBI)」のケースは認定が特に難しく、注意が必要です。

また、高次脳機能障害の後遺障害認定では、受傷後ほぼ3ヶ月以内に完成する「脳室拡大・びまん性脳委縮の画像所見」が最重要視されます。そのため、受傷直後から3ヶ月後までは定期的にMRI検査などを受け、記録を残しておきましょう。

後遺障害等級はどう決まるか?認定の仕組みと等級の目安

専門部会による「高次脳機能障害認定システム」

「高次脳機能障害に該当する可能性がある事案」について、受傷後の詳細な意識障害の推移、高次脳機能障害の内容・程度の照会、被害者側への日常生活状況の確認などの詳細な情報を得た上で、専門医を中心とする自賠責保険(共済)審査会高次脳機能障害専門部会が後遺障害等級を認定する仕組みを構築しています。これを「高次脳機能障害認定システム」といいます。

自賠責保険では、脳外傷による高次脳機能障害であると認定されれば、その症状に応じ、自動車損害賠償保障法(自賠法)施行令別表第一および別表第二に定める後遺障害等級のいずれかに該当するものとして、取り扱っています。その際、高次脳機能障害に合併した運動マヒなどの神経症状も十分に考慮します。

高次脳機能障害で認定されうる等級の目安

交通事故によって高次脳機能障害を負った場合、認定される可能性がある後遺障害等級は、1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号です。それぞれの等級の目安は以下のとおりです(自動車損害賠償保障法施行令別表第一・別表第二に基づく)。

  • 別表第一 第1級(常時介護を要するもの):常に介護が必要で、自力で生命維持に必要な行動もとれない状態
  • 別表第一 第2級(随時介護を要するもの):日常動作は可能だが随時介護が必要な状態
  • 別表第二 第3級:労働能力を完全に失った状態と評価される大変重い障害。労働能力喪失率は100%とされています。
  • 別表第二 第5級:単純繰り返し作業などに限定すれば一般就労も可能だが、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題があり、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないもの。
  • 別表第二 第7級・第9級:仕事はできるが、記憶力や注意力に問題が残り、業務効率や対人関係に支障が出る状態

高次脳機能障害においては、自賠法上1~3、5、7、9級(12級や14級に留まる場合もあります)に該当することになり、実際に残存した症状が何級に該当するかを判断することは困難です。等級の判断には専門知識が必要であり、弁護士によるサポートが有効です。

認定申請で絶対に押さえておくべき書類と注意点

高次脳機能障害に特有の必要書類

通常の後遺障害申請と異なり、高次脳機能障害の認定申請では、複数の特殊な書類が必要になります。高次脳機能障害で自賠責保険の後遺障害認定を受けるためには、担当医に「後遺障害診断書」に加えて、「頭部外傷後の意識障害についての所見」「神経系統の障害に関する医学的意見」という書面を作成してもらい、MRI等の頭部画像検査資料等も提出します。さらに、ご家族も「日常生活状況報告」という書面を作成して提出します。他の後遺障害とは異なる点です。

特に「日常生活状況報告書」は非常に重要です。被害者の日常生活上の変化は重要であり、病識の低下を特長とする高次脳機能障害を負った被害者においては、同僚やご家族、医療関係者等への確認・協力のもと、詳細な日常生活状況報告が必要となります。

認定を左右する実務上の注意点

等級認定のためには後遺障害診断書が大切ですが、そこには脳外傷を受けたこと、意識障害の程度、関連性のある障害があることなどが記載されているかどうかが重要です。特に「神経系統の障害に関する医学的意見」の各項目は簡単に書かれてしまうケースが多いですが、その書き方が適切でないことが原因で後遺障害等級が非該当となるケースもあります。

また、高次脳機能障害以外の案件では後遺障害診断書と治療経過の診断書、明細書、検査画像があれば基本的には審査が行えますが、高次脳機能障害に関する事案についてはカルテによる詳細な検討が必要です。このように、高次脳機能障害の審査にはとても専門性が要求されます。したがって、交通事故の被害者の方やそのご家族だけで手続を進めるのは非常に難しいものです。

申請方法には「被害者請求」と「事前認定」の2種類があります。被害者請求(自分で自賠責保険へ直接申請する方法)は、提出する資料を自ら選べるため、適切な書類を揃えることで認定に有利に働く可能性があります。一方、事前認定(保険会社を通じて申請する方法)では、書類の収集を相手方保険会社に委ねることになるため、注意が必要です。

賠償金・慰謝料の相場と保険会社との交渉ポイント

請求できる賠償金の種類と計算方法

高次脳機能障害で後遺障害等級が認定された場合、請求できる賠償金は複数の項目にわたります。

  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料):入院・通院の期間や日数を基に算出される慰謝料です。
  • 後遺障害慰謝料:高次脳機能障害の慰謝料相場は、後遺障害等級に応じて690万円〜2800万円(弁護士基準)です。
  • 逸失利益:逸失利益とは、交通事故にあわなければ本来得られたはずの収入のことです。「一年あたりの基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」により計算します。
  • 将来介護費:重度の等級(1級・2級)で認定された場合、将来にわたる介護費用を請求できる可能性があります。

基礎収入は原則として事故前の実収入をもとにしますが、収入がない学生や主婦の方は、厚生労働省の「賃金センサス」という統計データを用いて算出します。高次脳機能障害の場合、若年層の被害者様も多いため、この「基礎収入」の認定が最終的な賠償額を数千万円単位で左右することがあります。

保険会社の示談交渉で注意すべきこと

後遺障害等級が認定された後、加害者側の保険会社との示談交渉が始まりますが、ここでも注意が必要です。高次脳機能障害の場合、賠償金は高額になることが多いため、保険会社は出し渋ります。示談交渉では、任意保険基準という自社で策定した低額の賠償基準を算出して提案してくることが一般的です。

保険会社との示談交渉では、介護の必要がある場合にはその必要性や介護費用、介護の必要まではない場合でも仕事や家事への影響を証明することになります。高次脳機能障害は、目に見えにくい後遺障害ですので、これによる仕事や家事への影響も第三者には分かりにくく、保険会社は、労働能力の制限の割合が高くないと主張して、逸失利益をできる限り減額しようとします。

また、重度の後遺障害が認定されたケースでは、別の問題が生じることがあります。高次脳機能障害で後遺障害等級1〜3級が認定された時は、被害者の方に示談を締結する判断能力が欠けている場合があります。こうした場合、原則として家庭裁判所に成年後見開始の審判手続きを行なう必要があります。

慰謝料の基準について、自賠責基準では1級で約1,650万円、12級で約94万円と、弁護士基準の半分以下〜3分の1程度にとどまります。この差を埋めるのが交渉力であり、交渉の成否を決めます。弁護士に依頼することで、弁護士基準(裁判所基準)による交渉が可能となり、大幅な増額が見込める可能性があります。

さらに、損害賠償請求権の時効は、治療に関する費目が事故翌日から5年、後遺障害に関する費目が症状固定翌日から5年です。また、加害者側の自賠責保険への請求では時効が3年とさらに短くなります。高次脳機能障害の場合は治療や後遺障害認定の審査に数年かかることがあり、その間にも時効は進行します。時効が迫る前に専門家に相談することが重要です。

おわりに

高次脳機能障害は、外見ではわかりにくい後遺障害であるがゆえに、被害者本人も気づかないまま適切な補償を受けられないケースが多く存在します。認定を受けるためには、①受傷直後の意識障害の記録②CT・MRIによる画像所見の確保③後遺症状の適切な文書化(日常生活状況報告書など)という3つの柱が重要です。また、後遺障害等級によって慰謝料・逸失利益・将来介護費の金額は大きく変わり、保険会社が提示する任意保険基準の金額は弁護士基準と比べて大幅に低くなる傾向があります。示談は一度成立してしまうと原則として覆せないため、サインをする前に専門家に確認することを強くお勧めします。

当事務所では、交通事故被害に遭われた方のご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。保険会社との交渉や後遺障害認定のサポートなど、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。

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